Love Celebrate!

白泉社の花丸文庫より現在8冊刊行されている樋口美沙緒先生による人気シリーズ。シリーズ10周年を記念して特典SSや同人誌など文庫未収録の作品を収録した豪華本が2冊が発売された。 今回は池袋虜で開催されたムシシリーズ10周年記念イベント内で行われた「樋口美沙緒先生 トークショー at 池袋虜」の模様をレポートする。

フェロモンで相手の階級と起源種を見分けることができる、 新しい人類が生きる世界―― 数千年前、生態系の危機に瀕した人類は、 強い生命力を持つ節足動物門と意図的に融合をはかった。 今の人類は、ムシの特性を受け継ぎ、弱肉強食の『強』に立つハイクラスと、『弱』に立つロウクラスとの二種類に分かれている。 ハイクラスの能力は高く、体も強いので、彼らが就く仕事は自然と決まり、世界の富と権力はいつしかハイクラスが握るようになった。 ムシの世界の弱肉強食が、人間の世界でも階級となって現れている。 このシリーズは、そんな階級世界を舞台にし、愛と生きることの尊さを描いた物語――。 (公式サイトより引用)

開催概要

日程:2020年2月9日(日)
時間:開場18:30/開演18:45(CLOSE 20:00予定)
料金:¥3,000
会場:池袋虜(@manga10_torico)
参加者:約60名
出演:樋口美沙緒先生(@misahigu)
司会進行:TORICOの山本さん

当日は参加者に池袋虜のカフェスタッフが考案したトークショー限定ドリンク「Love Celebrate!」が配られた。樋口先生の挨拶で乾杯しトークショーがスタート。

【執筆について〜ムシシリーズ10周年を迎えて〜】

■愛の巣へ落ちろ!刊行までの経緯

こういうシリーズを出すと先輩作家さんに伝えたら 虫なんて売れないからやめた方がいいと言われた。 最初はあまり売れてなかったけど口コミのおかげで続けられた。手に取った本のあらすじに虫って書いてあったら棚に戻しちゃいますよね、と樋口さんも気にされてましたが、友達に薦められて虫ダメだけど読んでみたら......とか ムシシリーズは口コミで読み始めた人が多い。 
一作目(愛の巣へ落ちろ!)は投稿作。 花丸文庫に投稿するも落選。 でも絶対面白いのに!!と思っていて 現在の担当さんが当時は他出版社にいたが 花丸(白泉社)へ移る時に読んでもらった。愛の巣〜は投稿時から基本的には変わってないが、 場面を入れ替えたり勢いのある文を抑えめに直した。

■愛の蜜に酔え!執筆の苦悩

執筆時は初稿から5回くらい直すのが基本。 愛の蜜〜は初稿だけで5verあった。 まだ作家としての経験が足りなくてプロットを書きこなす力量がなく、 結局15回くらい書き直した。里久がクロシジミチョウの自覚なくクロアリだと思っていたら......など一番悩んだ作品。 愛の巣を読んでお手紙くれたり友達に薦めてくれたりした熱い読者さんたちに納得して受け入れてもらえるものを書かなくてはという二作目のプレッシャー。 そういったプレッシャーとの向き合い方にまだ経験も少なかった当時は慣れてなかったため、なかなか乗り越えられなかった。綾人のいいところが見えない、里久は綾人の何処を好きになったのか悩み、 愛の巣〜から一年以上が経っていた。

愛の巣に落ちろ!は2010/04/20発売、愛の蜜に酔え!は2012/07/20発売。愛の蜜はノートがたくさん残っているので今回展示することができた(他は担当さんと話ながらなのであまり残っていない) 飯田橋虜で展示されている先生の創作ノートを見るとその苦悩が窺える。街子先生と南十時先生に創作ノートを見せた時、あ〜〜〜〜〜〜とか心の声を書き連ねてあるところもちゃんと罫線の中に収まって書いてるのが偉いと言われたそうだ。

■タイトルについて

樋口先生が考えているが毎回とても悩む。 いくつか候補(キーワード)を書き出して担当さんに相談する。 一作目の愛の巣へ落ちろ!は投稿作なので自分で考えた。 蜘蛛が出てきたら巣でしょ!と簡単に決まった。

■表現について

作家さんによって「映像が浮かぶ派」と「文字だけ浮かぶ派」がいて、樋口先生は「映像が浮かぶ派」とのこと。 浮かんだ映像を文字に書き起こしていく。 文章は詩的な表現より伝わりやすくなるように気をつけている。
キャラクターが本来やらないようなことをやると書いていてモヤモヤして気持ち悪くて止まる。 無理矢理書くこともできるが止まって考えると、どういう人かキャラクターと対話する中でこうじゃなかった、このために動いていたんだ!と腑に落ちることがある。100Pずーっとモヤモヤしたまま書くこともある。 なんなら初稿の間ずっとモヤモヤしたままのことも。 そんな時はこれで完成だと思わないでください!と負け惜しみで 「クソ原稿です。」と添えて提出する。 そうやって送られた原稿はだいたい担当さんから「面白くないです」と返ってくる。 担当さんには感想をハッキリ言われる。
執筆期間は文庫1冊だいたい3ヶ月あれば。 1年かかるものもあるし、2ヶ月で書き終わるものもある。 シリーズものは比較的早く、新しいもの、長いものは時間がかかる。 (構成考えたり、資料集めて調べたり)

■資料について

ムシシリーズに関して言えば虫によって資料が少ない。 昆虫学者も自分の好きな虫を研究するので人気のある蝶やカブトムシは本も多い。 日本の昆虫学者はナナフシに興味ないらしくナナフシは1冊しか本がない。 アニソモルファも和名がなく、響きがちょっと浮いてしまうが勝手に和名作る訳にもいかずそのまま使用。

ナナフシやアニソモルファについて触れているサイト↓

虫の資料がなかなかないので、月刊むしを定期購読している。 表紙は素人さんが撮った虫写真。 ちょっとでも模様が違ったものは新種として投稿されるので、カメムシだけでも何万匹といる。

月刊むし 

www.fujisan.co.jp

資料探しはAmazonとかのネット書店を利用している。 仕事柄なかなか外に出れないが、出た時は書店に行く。 書店に行ったら真っ先にBLコーナーを見に行って、しこたま(10冊以上)買う。 買うものは幅広く、表紙買いもする。 電子書籍とか◯◯をこの本を読んだ人が買った本はこちらとかオススメされたりするけど 実際書店に行って平積みされてる本と違ったりするから本屋に行くのも大事。

■執筆中に必要なもの

水・お茶・辞書、タイマー(※)、チョコ。 チョコを食べると辛いものが欲しくなってチキンラーメンとか食べちゃってたけどラブセレの対談の時に街子先生がチョコと柿の種を食べていると聞いて今は樋口先生もそうしている。

ラブセレインタビューでも触れてた集中するためのもの  (5分にセットして集中して書いては休む)アーモンドチョコレートが一番脳の集中にいいらしいが たくさん食べるとニキビとかができてしまうので食べられない。

■執筆スケジュール

基本は同じ時間に机に座るようにしている。二時間くらいツイッターやネットニュース見たりして、 エディター立ち上げたあとも30分くらいだらだらしていることも。カレンダーに1日のノルマページ数を割振る。 月初とかにはカレンダーに割振るだけで30分くらいしか仕事をしない日もある。 だいたい締め切りに遅れないように割り振りをするんだけど、 途中ありえないページ数をこなすことになっていて 割り振りした過去の自分にイライラしながらカレンダーを書き直す。 ただ、基本的に最後は筆ものっているので予想より早く書けることが多い。執筆中は口に出して台詞を考えるそうで、 兜の台詞とかも嫌だけど「あっちゃん!」とか言っている(笑)

【虫について】

小さい頃から周りに虫がいる環境だった。 おばあちゃん宅によく預けられたが、田舎だったのでTVも限られたチャンネルしか映らず当時高校生だった叔父さんが採ってきた虫の余りをくれたのでカブトムシを相撲させたりして遊んでいた。 沖縄だからGも大きいし多くて、高校生の頃に弟と家中のGを根絶やしにしようと奮闘した。 1匹だけなかなか倒せず、三日三晩戦って退治した。小さい頃は平気でも大人になったら虫ダメって人が多いけど、樋口先生は今でも平気とのこと。 昔アパートの隣の部屋の人にGを殺しにきてくれと頼まれて退治したこともある。

■虫以外に好きな生物は?

海洋生物。生態が面白い。 原始に近いものは人間にはわからない生態を残している。 深海魚だとデメニギス(頭が透明な魚)とか好き。 でも見た目的に作品にするのは難しい。
デメニギスについて触れているサイトのURL貼っておくので参考までに。 

kurashi-no.jp

■苦手な虫は?

G、ムカデ。 てんとう虫の幼虫は平気。澄也の起源種であるメキシカンレッドニータランチュラより シモンの起源種のグーティ・サファイア・オーナメンタルの方が凶暴性高い(シモンはその性質はないけど) インドの方が攻撃力高い蜘蛛が多い。「こんなに虫の話しちゃって平気?みなさん大丈夫??  好きにならなくてもいいけど、嫌いにならないで〜」と気にされてました。

【キャラクターの名前について】

その時その時で考えている。

ムシシリーズのキャラクターは起源種のムシや色が含まれているのでわかりやすい。街子先生のキャラデザも色味含め起源種の虫のイメージを上手く取り入れてると感じる。 以下参考までにキャラ名と起源種を記載したので虫が絶対無理!とかでなければ画像検索してみて欲しい。

 ★キャラ一覧★

「愛の巣へ落ちろ!」

七雲澄也(タランチュラ)

×

青木翼(シジミチョウ)

「愛の蜜に酔え!」

有賀綾人(クロオオアリ)

×

黒木里久(クロシジミチョウ)

「愛の裁きを受けろ!」

七雲陶也(タランチュラ)

×

蜂須賀郁(カイコガ)

「愛の罠にはまれ!」

兜甲作(ヘラクレスオオカブト

×

蜂須賀篤郎(オオスズメバチ

「愛の本能に従え!」

村崎大和(オオムラサキ

×

七安歩(ヤスマットナナフシ)

「愛の在り処をさがせ!」&「愛の在り処に誓え!」

シモン・ケルドア(グーティサファイアオーナメンタルタランチュラ)

×

並木葵(ナミアゲハ

「愛の星をつかめ!」

白木央太(スジボソヤマキチョウ→ツマベニチョウ

×

雀真耶(ヒメスズメバチ

名前の元が起源種と一致しないものとして 白木はスジボソヤマキチョウの要素なしなのは投稿作時点ではウスキシロチョウだったから。 ウスキシロチョウは大きいので変更。 央太は真ん中くらいの人。シモンは虫に関係なし。海外の人の名前でわかりやすいものを、と考えた。 シモンのイメージ的に力強い名前は合わない(例:マイケル、ベッカム、トム) 小説は読むものだから響きに違和感のないように性格とあっている名前を選んだ。澄也は起源種がタランチュラ愛好家の中でスミティと呼ばれているから。 

【各作品のCPを一言で表すなら?】

澄也×翼(愛の巣へ落ちろ!)

最初の二人。
今では熟年夫婦。この二人がいてくれるから他も成り立つ。

綾人×里久(愛の蜜に酔え!)

二人だけの世界。
綾人が変態なことに里久が気づかないの作者ながらすげぇって思う。

陶也×郁(愛の裁きを受けろ!)

天上人。 この世ではなく異世界の住人のような二人。

兜×篤郎(愛の罠にはまれ!)

二人のテンションの差が激しい。
割れ鍋に綴じ蓋とも言える。 

大和×歩(愛の本能に従え!)

心は初心、身体は淫乱。
大和がずっと付き合いたてみたいに接してくれるからいいなって思う。

シモン×葵(愛の在り処をさがせ!/ 愛の在り処に誓え!)

百合。 表紙にも百合描かれてるし。百合好きですよ。

央太×真耶(愛の星をつかめ!)

太陽と月。
お互いこの人以外だったら付き合わない、一緒に生きる選択はしない。

【作家になって一番よかったことは?】

たくさんの人が読んでくれること。 読者の方の受け取り方は自由、その中で(お手紙やイベントで感想受け取ったり)伝わったって感じること。 書くだけなら同人だけでもよかったかもしれないけど、 たくさんの人、遠くの人まで伝えたいからプロになった。 これからも粛々と皆さんが読んでくれる話をできる限り長く書き続けて行きたい。 皆さんの人生のお供にしてください。

トークショー終了の時間が迫ってきたとのことで、樋口先生と参加者でコースターをかけたジャンケン大会をしました。先生が参加者を一掃するジャンケンの強さを発揮し「私ハイクラスかも?」なんていう場面も。 中々勝てなくて皆が脱落していく中、時間も気にされていて最後あいこの方いたのでその方にしましょう! とか、巻きでやりますね!とテキパキ仕切っていて初めてのトークショーということだったんですがトークも場の仕切りも手馴れてる感あって凄かったです。 

先生にサプライズ! デビュー11周年、そしてムシシリーズ10周年のお祝いで皆でハピーバースデーを歌いました♪ 

先生の挨拶

1人で投稿作を書いていた頃はこんなにたくさんの人に読んでもらえるとは思ってなかった。 読者さんから手紙で生活の中の苦しいこととかを作品を読んで救われたって言ってもらえるけど、作家がどんなに届けようと思っても、受け取る側が扉を開けてくれなかったら届かない。 だから作品を読んで感じてくれたことは元々皆さんが持っているもの。 手紙を読みながらこの人は心が綺麗な人なんだなって思う。 これからも皆さんの心の扉を叩けるような作品を書き続けて行きたい。

 

↑噂の○を繋げておけばなんとかなると思ってる絵

■ information

シリーズの原点、愛の巣へ落ちろ!は現在南十字明日菜さんの作画でコミカライズが連載されている。

ドラマCDは現在愛の本能に従え!までがフィフスアベニューより発売中。

イベントアーカイブ

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飯田橋虜に展示されたキャラボード(ラブセレ表紙順)

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飯田橋虜に展示されたキャラボード(刊行順)

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飯田橋虜の展示

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コミコミスタジオ町田の10周年ディスプレイ

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コミコミスタジオ町田

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飯田橋

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池袋虜

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コラボカフェの交換コーナー

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