久世邸

前回は「憂鬱な朝」に登場した様々な場所を紹介したが、今回は久世邸のモデルとなった旧前田家本邸をを紹介します。 

旧前田家本邸について

旧加賀藩主で前田家第16代当主の利為が自邸として建てたものです。洋館は昭和4年(1929)、和館は昭和5年(1930)に竣工。洋館1階は外交団や皇族を招く晩餐会を行なう社交の場で、2階は家族の生活の場でした。前田利為は、前田家(加賀百万石といわれる大大名)第16代当主にして侯爵(明治17年の華族令発布により、前田家は侯爵の爵位を授与された)です。本郷に本邸がありましたが、関東大震災後に東京帝国大学と土地を交換し、現在の駒場を新邸と決定。本郷邸は広すぎて生活に向かないとの考えから駒場本邸では質素な暮らしを望んだそうです。とは言え駒場のお屋敷もパーティーが催されるほどの広さがあり、使用人も100人以上いたということで庶民と比べても質素とは言えず上流階級の暮らしが華やかだったことがわかります。

作中で当初より桂木が拘っていた陞爵ですが、華族は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の5爵に叙され、久世家は子爵。

外観 

f:id:bl_id:20210109232834j:plain

表玄関

作中でも特に多く出てくるのが正面のこのアングル。とんがり屋根の塔、張り出した車寄せが印象的です。お客様を出迎える屋敷の顔ですね。憂鬱な朝で描かれるお屋敷は屋根の部分の形は変更されています。

f:id:bl_id:20210109231238j:plain

屋敷裏

scene.4で桂木が出てきたのは屋敷裏にある日常用の玄関。コミックス2巻限定版小冊子の「Escape」で屋敷から抜け出した幼い頃の暁人がこっそり戻る際に使おうとしていたのもこの扉です。中庭の北側には使用人たちの食堂や溜まり場があり、商人などもここから出入りしていました。

大階段

f:id:bl_id:20210109233655j:plain

大階段

「NOBLE COLORS」の表紙や他カラーおよびモノクロ扉絵等にも登場しており、読者にとって印象的な場所ではないでしょうか。透し彫りの手摺も美しいです。

f:id:bl_id:20210109234646j:plain

イングルヌック

暖炉脇の小さなスペースをイングルヌックと言うそうです。大階段下のスペースを利用した小さな談話室のような空間で、「NOBLE COLORS」の裏表紙やscene.33で暁人が桂木を連れ込んだのもこのスペースです。

f:id:bl_id:20210109233318j:plain

イラスト

scene.38(CharaSelection巻頭カラー扉)で描かれているのは大階段上のこの場所。窓から差し込むやわらかい光がドラマチックでとても美しい場所です。

1階 社交の場 

f:id:bl_id:20210110140829j:plain

第一応接室

 夫人やお嬢様のお客様が通された応接室。白いタイルでできた背の高いマントルピース(暖炉の周りを囲う装飾枠)が特徴です。ダマスク柄の黄色いカーテンがかけられた明るい雰囲気の部屋でだったようです。

f:id:bl_id:20210110141604j:plain

大食堂

f:id:bl_id:20210110141700j:plain

大食堂の窓

26名までのディナーが可能な大食堂。晩餐会のための部屋で、白大理石のマントルピースを中心にその周囲は金唐紙で飾られ豪華でありながら、天井近くまであるチーク材の壁パネルが落ち着いた雰囲気も醸しています。

f:id:bl_id:20210110142045j:plain

大客室

大食堂につづく大客室はお客様に寛いでいただくための場所。電子ピアノも置かれている。 

f:id:bl_id:20210110142330j:plain

大客室および小客室

f:id:bl_id:20210110150404j:plain

小食堂

家族が日常的に夕食をとっていたのはこの小食堂。部屋の隅には地下の厨房から料理を運ぶための小型エレベーターが設置されている。大食堂から小食堂へ続く廊下には扉があり、この扉を境に内装が重厚なものから簡素なものへと変わる。先述の通り北側は和館への渡り廊下や使用人たちの部屋が配置されています。 

2階 生活の場 

f:id:bl_id:20210110152625j:plain

夫人居室

夫人の居室は家族団欒の場でもあり、親類などはここに通されたようです。 

f:id:bl_id:20210110151653j:plain

長女居室

元は第一客室として計画されており、2室に仕切ることもできる広い部屋です。実際には長女の居室として使われました。  

f:id:bl_id:20210110151939j:plain

三女居室

夫人のための化粧室で広い押入れが2つ付属している。三連アーチの窓にシャンデリアもある優美な部屋です。のちに三女の居室として使用されました。 

f:id:bl_id:20210110162255j:plain

女中室

洋館ですが、女中室は和室でした。 

最後に

憂鬱な朝「NOBLE COLORS」には美麗なカラーイラストも多数収録されている。旧前田家本邸は洋館だけでもかなりの広さがあり、当時の上流階級の邸宅の華美な造りは見応え十分です。今回すべての部屋を紹介できてはいないので、本書を片手に本邸を巡ってみては如何でしょうか。

憂鬱な朝 NOBLE COLORS

憂鬱な朝 NOBLE COLORS

番外編 

渡瀬悠宇先生の「櫻狩り」の斎木家のモデルも旧前田家本邸です。こちらは大正時代の華族のお話ですが「憂鬱な朝」好きにもオススメできる名作です。

櫻狩り 上

櫻狩り 上

時は大正9年。一高入学を目指して志高く上京した、田神正崇。 そこで、運命の悪戯か奇しくも出逢ってしまったのは、謎めいた美青年 侯爵家の御曹司・斎木蒼磨だった。 その時から、正崇の運命が狂おしくほとばしりはじめて---!! 愛憎入り乱れる、美しくも悲痛な、大正浪漫幻想譚。(公式サイトより引用)

f:id:bl_id:20210109235903j:plain

櫻狩りのカラーイラストで使われている場所

志村貴子先生の「青い花」でも一部(洋館が学院、和館が先輩宅)モデルとなっています。アニメ化もされた百合漫画の名作なのでご興味あれば是非。