憂鬱な朝と巡る東京
『憂鬱な朝』では明治時代の東京の景色が鮮やかに描かれている。明治時代の建築物等は震災や戦禍、長年の開発等により現代では失われてしまっているものがほとんどだ。しかし最近では高輪ゲートウェイ駅の再開発工事で、国内初の鉄道開業当時(明治)に東京湾の浅瀬に線路を敷設するために造られた「高輪築堤」が出土したというニュースが流れた。私たちが生活している地にも意識していないだけで当時の軌跡が現代にも残っている。今回は憂鬱な朝に登場する現在も訪れることができる施設を中心に紹介する。
明治時代 1868年〜1912年
江戸時代までの日本の元号は、天皇の代替わり以外にも災害などの要因で変えることもあった。
(文政は江戸大火や京都の地震などの災異により改元し天保となった)
天皇の即位からその死までを一つの年号とする一世一元制度は明治時代に採用された。
憂鬱な朝の第1話は幼い暁人が久世家に向かう馬車内のシーンから始まる。このシーンで田村が暁人に新橋駅から銀座にかけての往来について述べていますが、明治時代に西から東京に上がってくる人々の表玄関と言えば新橋でした。
旧新橋停車場
1872年10月14日(明治5年9月12日)に新橋横浜間の鉄道が開通。日本初のターミナル駅である新橋停車場は、新橋と言っても現在の新橋駅の位置ではなく汐留エリアにありました。大正3年に新設の東京駅に旅客ターミナルの機能が移り、それまでの烏森駅が新橋の名を引き継ぎ現在の新橋駅となったあとは貨物専用駅となり物流拠点として東京の経済を支えました。当時の駅舎は大正12年の関東大震災で焼失しましたが、現在は同じ場所に旧新橋停車場として再建され、鉄道発祥の地として様々な企画展が開催されています。
当時のプラットフォームも再現されているため、暁人や桂木がこの地から電車に乗ったんだな、と空想に浸流ことができる。
所在地:東京都港区東新橋1-5-3
開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館15分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし、祝祭日の場合は開館、翌火曜日が休館)、
年末年始(12月29日~1月3日)
アクセス:各線「新橋駅」より徒歩3〜5分
入場料:無料
銀座千疋屋
話は第1話の冒頭に戻り、馬車から見えた行列に興味を示した暁人がリンゴが食べたいと訴えるシーンがあります。NOBLU COLORSの作者インタビューで憂鬱な朝では史実や時事を絡めないため、明治◯年というのは入れず年号はあえて曖昧にしていると語っていますが、銀座千疋屋が果物食堂を開いたのが1868年。このシーンで言う果物屋は銀座千疋屋が近いのではないでしょうか。
リンゴだけのメニューはないが、フルーツパフェやフルーツサンドにはリンゴが使用されている。
所在地:東京都中央区銀座5-5-1
開館時間:[月~土]11:00~20:00 [日・祝]11:00~19:00
定休日:年末年始
アクセス:東京メトロ 日比谷線、銀座線、丸ノ内線「銀座駅」 B5出口すぐ
旧前田侯爵邸
久世邸のモデルとなっているのが現在は駒場にある旧前田侯爵邸だ。この邸宅は昭和初期に建てられたものなので、明治の建築物ではない。しかし当時の上層階級の邸宅の様子を知る事ができる貴重な建物だ。
旧前田侯爵邸の内部については別記事「久世邸」で紹介する。
所在地:目黒区駒場四丁目3番55号
開館時間:9:00~16:30
休館日:毎週月曜日。年末年始12月28日から1月4日。
(ただし、月曜日が祝日と重なる場合はその翌日)
アクセス:井の頭線「駒場東大前駅」より徒歩10分
入場料:無料
旧岩崎邸庭園
森山侯爵邸のモデルとなっているのは旧岩崎邸だ。旧岩崎邸は1896年(明治29年)に三菱を創設した岩崎家の3代目当主の本邸として建てられた。上野から不忍池沿いに湯島へ向かったところに現存している。洋館と和館が併置された敷地は撞球室(ビリヤード場)も含めてかなりの広さだが、当時の三分の一の面積でしかない。和館は岩崎家の日常の場として主に岩崎家の行事に使用され、洋館は外国人、賓客を招いてのパーティーなどプライベートな迎賓館として使用されていた。
外観は撮影可能だが、館内の写真は土日祝は撮影することができない。和館には和菓子と共に抹茶を頂ける喫茶室がある。
所在地:東京都台東区池之端一丁目
開館時間:9:00~17:00 (入園は16:30)
休館日:年末・年始 (12月29日~翌年1月1日まで)
アクセス:東京メトロ千代田線「湯島」より徒歩3分
入場料:400円
精養軒
暁人が特等室に滞在していたのは精養軒ホテルだ。精養軒ホテルは明治5年4月、西洋料理の草分けとして東京築地に創業。現存する上野精養軒は元は支店として明治9年に開業しましたが、大正12年に関東大震災により築地本店が焼失したため、以後本店機能を果たすことになりました。当時は貴族や名士が集う社交場でもあった。
昔から変わらぬ味のハヤシライスやビーフシチューなどを提供している。現存する上野精養軒の建物は昭和34年に完成された。